■ ロジャー・ムーア・イオンプロ7作品 ■
 
■ 第8作 007 死ぬのは奴らだ 
Live And Let Die 
1973年 英・米
監督/ガイ・ハミルトン
製作/ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ
脚本/トム・マンキーウィッツ
音楽/ジョージ・マーティン
主題歌/ポール・マッカートニー&ウイングス
撮影/テッド・ムーア
編集/バート・ベイツ
美術/スティーブン・ヘンドリックソン
タイトル・デザイン/モーリス・ビンダー
●舞台/ニューヨーク、カリブ海の島国、サン・モニーク(架空の国)、
 ニューオリンズ(アメリカ)
●敵/Dr.カナンガ/Mr.ビッグ(ヤフェット・コットー)
●ボンドガール/ソリテア(ジェーン・シーモア)
 撮影前にハミルトンは、「アクションの集大成にする」とハッキリ言っています。そもそもハミルトンにアクション演出ができるのか? 当時すでに「ブリット」や「フレンチ・コネクション」等、リアリティアクションの傑作が目白押しだった。

 ハミルトンのアクションは、後期007のグレンに見られるような編集を前提としたカット割りのアクションでは無く、その場のノリの”やっちまったぜ!”みたいなアクションで、さて、「死ぬのは奴らだ」どうなるのかと淡い期待を抱いたが、案の定、確かにアクションの集大成だが、ほのぼのとしたハミルトン節アクションという結果となっている。

 全編、アクションらしきものが続く話の運びだが、アクションなのか何なのか分からん葬儀シーンのプレシークエンスで思いっきり脱力・・。このプレシークエンスは、「黄金銃」と肩を並べるくらい、シリーズ1,2を争う駄作加減である。

 大きな見せ場アクションは、ニューヨークの車、飛行場、二階建てバス、ボートチェイスだが、緊迫感が感じられるシーンはニューヨークの車が少しと、ボートチェイスの最後だけ。あとは飛行場で車が飛行機の側面をクラッシュするスタントがまあ見せたぐらい。

 飛行場などは、もう笑えないコメディで、ワニの綱渡りなどは、実際危険だったらしいが、”呆れてください”と言わんばかりの演出となってる。

 ハミルトンは50年代、60年代で培ってきた映画人ですから、当時(1973年)の最先端を取り入れないのは、それはそれで、その人の人となりですから、筆者(youon)はよろしいと思います。

 よろしいと思いますが、”あ、これ許せねえな・・”と確実に思ったのは、飛行場のアクションで、両翼がもげたセスナ機が、ひょこひょこと敵の方に前進し、敵はそのセスナに銃を向けるが、撃つのをやめ、”うぁーー!”という感じで逃げる・・・。

 あの原付みたい(セスナのこと)のが、低速で走ってる映像に何の緊張感があるというのだろうか? そして、そんなのサラッと避ければ済むものの、慌てて逃げ出す敵とは、一体いかなる腰抜けだろうか? それを許す(演出する)007映画に何を期待せよと言うのか?

 「黄金銃」もさらに質が下がったので、『これで007は終わりだ』と、筆者(youon)は当時確かに思いました。

 ただ、分かって見てれば「死ぬのは奴らだ」は楽しい作品です。期待して見たらこんな馬鹿馬鹿しい話はない。しかしながら、何度か見慣れればとても面白い。何故なら初めからハミルトンは細部にこだわってないから。押しつけがましいところが全然無い。だから、「死ぬのは奴らだ」は、噛めば噛むほど味が出る作品なのです。

 多くを語る必要は無い。タイトルのM・ビンダーとタイトル音楽のマッカートニーは優秀。ジョージ・マーティンの音楽は今聞くと実に新鮮だ。
●極私的注目点
・ビンダーのタイトルバックはこの作品がベストだと思う。
・ブードゥーショップで、蛇のぬいぐるみを買うボンド(ムーアのボンド姿勢を表現している)。
・やはりベタだが、「LOVER」ばかりのタロットカード。
・サメディ男爵の「イッザ、ビューティフルデイ!」と奇妙な挨拶、手を振るソリティア。
・ロレックスの磁石時計。
 
死ぬのは奴らだ











 
 ・ガイ・ハミルトン演出論

 何故(まあ人に依るが)「ゴールドフィンガー」と「ダイヤ」は楽しめて、「死ぬのは」と「黄金銃」は、駄作臭さ満載なのか?

 上記4本共監督は、ガイ・ハミルトンである。違いは主演だ。

 ハミルトンの演出法は4本共基本的には同じ。ゆるーく、緊張感をさほど持たせない。
 「合理性がある」、「隙が無い」、「迫力がある」といった本来のアクション・ドラマ制作の基本からズレたところにハミルトンの特徴がある。

 特に笑わすという訳でもない。「あーあ、やっちゃった・・」という感じ。007以外も基本的にそういう演出ですが、観客との距離がとても近いのが、ハミルトンの「ボンド映画」です。

 それでいて面白くなったり詰まらなくなったりするのは、俳優との相性なんだろうと思います。

 コネリーが鬼のような形相で演じたヤング監督「ロシア」の後、「ゴールドフィンガー」では、人が違ったようにリラックス、ここでのコネリーはチャーミングでさえある。それが作品「ゴールドフィンガー」のイメージを決めている。これはひとえにハミルトンの演出のなせる技。コネリーの固さにハミルトンの柔らかさが見事に調和した賜物でしょう。

 「ダイヤ」にしてもそう。製作サイドでもめてるコネリーが、”出てやってるんだよ、金は寄付でくれてやったのよ、文句あるのか?コラ”と酔ってくだ巻いたような演技姿勢に、ハミルトンのおとぼけ演出が緩和させ、これまた見事な不思議な楽しさを生みだしている。ラスベガスの路上で警官から車をバックさせ、逃げる時のコネリーの表情を見よ。

 さて、「死ぬのは」のロジャーだが、ロジャーの基本は、”おとぼけ”なのだ。
 それにハミルトンの”おとぼけ演出”が被さって、”何だこりゃ?”になってしまったのである。
 
■ 第9作 007 黄金銃を持つ男 
The Man with the Golden Gun
1974年 英・米
監督/ガイ・ハミルトン
製作/ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ
脚本/リチャード・メイボーム、トム・マンキーウィッツ
音楽/ジョン・バリー
シンガー/ルル
撮影/テッド・ムーア、オズワルド・モリス
編集/レイ・パウルトン、ジョン・シャーリー
美術/ピーター・マートン
タイトル・デザイン/モーリス・ビンダー
●舞台/香港、マカオ、タイ、南シナ海(後にジェームズ・ボンド島と命名)
●敵/スカラマンガ(クリストファー・リー)
●ボンドガール/タメアリー・グッドナイト(ブリット・エクランド)
 イオンプロのドキュメンタリー「エブリシング・オア・ナッシング」を見ると、この「黄金銃」で明らかに”迷った”と言ってる。迷ったというよりか、”狂った”という表現の方が合ってる。その”狂う”もキ〇〇〇という意味よりも、ネジが狂う、ネジが緩むといったニュアンスだ。

 プレシークエンスの暗殺者がつぶやく「許せアル(・カポネ?)」からして意味不明で、その暗殺者が抱えるであろうトラウマを鑑賞者に説明しないどころか伝える気も無い。
 ハミルトンのおとぼけ演出も全て裏目、「いいんだよどーでも」は、「それじゃマズイだろ!?」と突っ込みを入れる場所も無いくらい、全体が弛緩している。もはや死に体。

 筆者(youon)が個人的に許せないのは、ホンコンからいつのまにかバンコク(?)にシーンが移ってること。それでクンフーか?そりゃホンコンでしょう。
 バンコクのカーアクションもクラッシュするのは全く関係ないタクシーという体たらく。このカーアクションシーンに旅行で来たであろうアメリカのペッパー保安官が同乗してるのも無理がある。

 どう見てもボンドが勝つだろうと思われるニックナック。何か特殊能力があるのならともかく、主にピーナッツを喰ってるだけ。
 ほとんど役に立たない日本人相撲取り。意味の無い人形公園。コメディじゃ済まされないグッドナイトの馬鹿っぷり。これらの何でもありの見せモノ小屋のルーツは、製作者サルツマンの経歴のサーカスだろうか?
 あとチューミーが全裸で性器を見せただけで、話に全く絡まない。おかしなところを挙げればきりがない。

 斜め沈没の当時のクイーンエリザベス(?)は良いとしても、Q。M、ボンドの会話シーンを何の工夫も無くほとんどワンシーンで撮ってる手抜きぶり。
 さすがのバリーも盛り上げようも無く、主題歌をフルート、ピッコロ、ストリングスで緩く繰り返すのみ、おまけに最大の見せ場をたて笛効果音で台無しに(バリー自身が認めてる)。主題歌はパンチが効いてて良い。

 共通して言えることは、スタッフみんなが、”ムーアにボンドは向かない”と思っていたのだと推測します。
 裏話にもサルツマンが像の靴を大量に発注して置き場に困ったとか、当時の予告編には鳥だかブーメランだかの謎の新兵器(?)が写っている(本編には登場しない)。明らかに製作は混乱していたと想像される。

 ただ、この作品で際立ったのは、ファンタジー映画の立役者、C・リーの存在感。それとやはり実際に360度カースタントを実行したことだろう。
 作品評価としては低いが、マニア心をくすぐる作品とも言えるでしょう。ジェームズ・ボンド島は最高のロケーション、その後名所になったのも当然。

 メイキングで本当にミニチュア車付き飛行機を飛ばしていたのを見て感心した。第2撮影班はキッチリ仕事してた。
●極私的注目点
・クンフー乱闘で、女子高生が前に出てくるところ。
・島に向かうボンドの飛行艇が木と軽く接触するシーン。
・スカラマンガの組み立て銃。
 
黄金銃を持つ男


■ 第10作 007 私を愛したスパイ 
The Spy Who Loved Me
 1977年 英・米
監督/ルイス・ギルバート
製作/アルバート・R・ブロッコリ
脚本/クリストファー・ウッド、リチャード・メイボーム
音楽/マーヴィン・ハムリッシュ
シンガー/カーリー・サイモン
撮影/クロード・ルノワール
編集/ジョン・グレン
制作デザイナー/ケン・アダム
タイトル・デザイン/モーリス・ビンダー
●舞台/アルプス(オーストリア)、カイロ(エジプト)、地中海
●敵/カール・ストロンバーグ(クルト・ユルゲンス)
ジョーズ(リチャード・キール)
●ボンドガール/アニヤ・アマソワ(バーバラ・バック)
 サルツマンが抜け、ブロッコリの製作魂が炸裂した作品。
 ムーアのイメージを生かし、とぼけた味と共にスケールのあるエンタテイメントに仕上がった。

 007の第2黄金期と評されたが、この作風は次作「ムーンレイカー」に受け継がれたのみで、その後この作風は登場していない。唯一この作風を受け継いだのは、パロディにした外部の「オースティン・パワーズ」のみ。

 監督のギルバートは自作の「二度死ぬ」に似通った話を、特に終盤、戦争映画的演出で上手く仕上げている。が、全体的に大味で、緊迫感のあるシーンはあまり見られない。唯一、ヘリとロータス・エスプリの追跡シーンが印象深い。

 鑑賞者の好みにはよるが、独自のジャンルを築きあげた作品として、シリーズ中、高く評価されてよい作品。また、この作品が高く評価されるのは、プロダクション・デザインのケン・アダムの功績が大きいと思う。
●極私的注目点
・タイトル後、軍服で登場するボンド。
・「フレンズ」主演のショーン・バリーが軍人役で出演。
・パラシュートのユニオンジャックの有名なプレタイトルで、音楽が不自然に重なってるのが不思議。
・ボンドカー・ロータスエスプリの活躍と魚を出すボンド。
・ピラミッド夜間シーンでボンドが映っていないので、ロジャー・ムーアの立て看板の写真を合成したという裏エピソード。

 私を愛したスパイ
 
■ 第11作 007 ムーンレイカー 
Moonraker
1979年 英・米・仏
監督/ルイス・ギルバート
製作/マイケル・G・ウィルソン、 アルバート・R・ブロッコリ
脚本/クリストファー・ウッド
音楽/ジョン・バリー
シンガー/シャーリー・バッシー
撮影/ジャン・トゥルニエ
編集/ジョン・グレン
美術/ピーター・ラモント
プロダクション・デザイン/ケン・アダム
タイトル・デザイン/モーリス・ビンダー
●舞台/カリフォルニア、ベニス、リオデジャネイロ、アマゾン、大気圏外宇宙(宇宙ステーション)
●敵/ドラックス(マイケル・ロンズデール)
ジョーズ(リチャード・キール)
●ボンドガール/ホリー・グッドヘッド(ロイス・チャイルズ)
 当時、製作者のブロッコリに言わせると「一番金をかけた」だけあって、金がかかってる感が画面から伝わって来る。
 この作品、おかしな(外した)コント部分を全部真面目にやっていれば、映画史上に残る超娯楽大作で世に残っただろう。

 「私を」で気を良くしたのか緩んだのか、大金投じてよくこの脚本でオーケーが出たものである。
 笑えないコント部分以外にも欠点はあるが、大量人員無重力のシーンのダイナミックさは、映画史上に残る名シーンである。

 他にもアマゾンのボートチェイス、模擬重力マシン、研究室の毒ガスシーンなど緊迫するシーンも見られるが、明らかに迫力不足のガラス展示室の竹刀アクションや、せっかくの舞台設定であるロープーウェイのアクションは、工夫の余地はいくらでもあるのに、気の抜けた出来(さぞかし編集に困っただろう)になる。

 スペースシャトル運搬(宇宙)から始まり、ベニス、リオ、アマゾン、宇宙ステーションと絶妙なロケ設定。

 この作品を最後に明確なテーマ(「ムーンレイカー」のテーマは、もちろん”宇宙”)がその後の作品には見られなくなる。

 監督のギルバートは大味の演出には力量を発揮するが、細やかなアクションは出来ないことが証明された。
 ベニスのボートチェイスも細やかに真面目にやれば、ボートのホーバークラフト化ももっと生きてくるはず。それをハトが目を丸くするカットを編集でリバースするなど、全く演出の誠実さが感じられない。よくブロッコリがオーケーを出したものだと思う。
●極私的注目点
・プレシークエンスのパラシュート横取り。
・重力装置の迫力とボンドのダーツ秘密兵器の活躍。
・フランス・ヴォー=ル=ヴィコント城をそのまま敵ドラックスの邸宅にした製作魂。
・ドーベルマンに襲われるコリンのシーンにバリーの曲、鐘に切り替わるショット。
・ボートチェイスでロジャーボンド初の「007のテーマ」曲登場。
・アマゾンの森で女に誘われるボンド。
・スペースシャトル打ち上げの美しさ。
・噴射口が会議室になっていて、それらが綺麗にたたまれる。プロダクションデザインの妙。
・大量無重力シーンのダイナミックさ。
  
ムーンレイカー














■ 第12作 007 ユア・アイズ・オンリー 
For Your Eyes Only 
1981年 英・米
監督/ジョン・グレン
製作/アルバート・R・ブロッコリ
脚本/リチャード・メイボーム、マイケル・G・ウィルソン
音楽/ビル・コンティ
シンガー/シーナ・イーストン
撮影/アラン・ヒューム
編集/ジョン・グローヴァー
美術/ ピーター・ラモント
タイトル・デザイン/モーリス・ビンダー
●舞台/ギリシャ、スペイン、イタリア
●敵/クリスタトス(ジュリアン・グローヴァー)
●ボンドガール/メリナ・ハブロック(キャロル・ブーケ)
 原点帰りと言われているが、全然、原作の原点には帰っていない。正確に言えば、過去を反省して新境地を見出した作品。特に監督ジョン・グレンの持ち味のコミカルな要素を付け加えたしっかりしたアクション。

 そのアクションは、第2班監督、編集の経歴を持つジョン・グレンの真骨頂。
 追跡車の屋根をタッチするシトロエンの車や、逆さになった追跡車の乗務員の表情などに見られるような、編集を前提としたカット割り、スキー場施設を縦横無尽に滑走するダイナミズム、クライミングの落下シーンのリアリティなど、見どころは満載。

 ただ、編集的な細かいカットに拘る一方、手抜きみたいなカット(ハーケンが不自然に抜けるなど)も多く、総合的な監督力はいまいちである。
 この総合演出力の弱さは、その後のシリーズに繋がり、後期シリーズの欠点となる。

 脚本はテーマが弱く、見せ場を繋げただけ。フレミングの長編にあったようなハッキリとしたテーマを打ち出すべきだった。
 製作者ブロッコリがこのテーマ無し路線でズルズルとシリーズを続けていたのが大いに疑問。と言うか、マイケル(共同製作者)が台頭してきたので、B級アクション路線がブロスナンまで続いたんだと推測します。

 単体作品としては、シリーズ上位に挙げられる作品だと思う。ビル・コンティの音楽は最高。ビル・コンティは映画音楽史に残る名作曲家である。
●極私的注目点
・冒頭、ブロフェルドを思わせるヘリアクション。廃工場でのヘリ爆音の使い方。音楽の入れ方の妙。

・シリーズ唯一、シンガーをタイトルバックで歌わせている映像。。
・メリナがシトロエンの助手席で、ギアをバックに入れるショット。手の動き。ボンドの表情。
・ジャンプ台へのエレベーターでのサスペンス。その後のスキーチェイス開始の音楽スタートの絶妙さ。
・アイスホッケーのシーンは、まるまる必要ないと思う。
・本当に落ちるロッククライミング。
・グレン監督作品の特徴である「鳩」はハッキリ言って邪魔です。素人のやること。
 
 ユア・アイズ・オンリー
 
■ 第13作 007 オクトパシー 
Octopussy
1983年 英・米
監督/ジョン・グレン
製作/アルバート・R・ブロッコリ
脚本/ジョージ・マクドナルド・フレーザー、リチャード・メイボーム、マイケル・G・ウィルソン
音楽/ジョン・バリー
シンガー/シャーリー・バッシー
撮影/アラン・ヒューム
編集/ジョン・グローバー
制作デザイナー/ピーター・ラモント
タイトル・デザイン/モーリス・ビンダー
●舞台/中南米、ロンドン、インド、西ドイツ
●敵/カマル・カーン(ルイ・ジュールダン)
オルロフ将軍(スティーヴン・バーコフ)
●ボンドガール/オクトパシー(モード・アダムス)
 前作(ユアアイズ)でシリーズの転換点になった、”トンデモアクション路線”は、この「オクトパシー」でも好調。プレタイトルの爽快さはシリーズ上位。

 グレンアクションの特徴である、”おかしなところでもノリで乗り切る”といったところも吉と出る。
 「オクトパシー」のプレアクションで言えば、”倉庫内の飛行にやたら時間がかかるところ”、が、スパッと隙間を抜け出る小型ジェット機。こういうところがグレンの良さだった。

 一方でグレン監督作品の欠点は、グレン第2作の今作ですでに出る。簡単に言えばテーマが希薄。フレミングの原作が無いことが原因だが、上手い脚本家なら、「オクトパシーの生き様」でも「ロシアの美術品」でもなんでもテーマを絞って話を引き締めることはできたはず。今作ではインドとドイツでイメージが全く二分されている。

 また、グレンアクションの欠点は、編集に頼り過ぎてるところ。初見は誤魔化せても2度目にはバレる。例えば、列車上の格闘シーンの背景がカットで明らかに違うなど。劇場1度鑑賞ならバレないが、2次メディア(DVD等)ではバレてしまう。
 ロジャーのおとぼけもゴリラ着ぐるみやピエロなど外してるシーンも多い。

 しかしまあ、総じて作品は面白く、「ユアアイズ」に次ぎ、シリーズ上位に位置づけてよい作品。
バリーは精彩に欠けた。インド風味を出そうとして滑ってる。
●極私的注目点
・超小型ジェット機アクロスターの活躍と倉庫をすり抜けるトリックの見事さ。
・サザビーズのオークションで美術品の卵をすり替えるボンド。こういう小手先の面白さがシリーズ全体を通して、もっとあってもよいはず。
「インドの名所タージ・マハルを飛ぶ大型ヘリコプター、バリーの音楽。

・ターザンの声とか、ぬいぐるみの虎を出して「シットダウン」とか、全部滑ってる。その後の「格安ツアーで・・」は良かった。
カマル・カーン操縦の小型飛行機上での格闘は流石である(スタントマン丸出しだが・・)。
 【Blu-ray Disc】 007/オクトパシー
  
■ 第14作 007 美しき獲物たち 
A View to a Kill
1985年 英・米
監督/ジョン・グレン
製作/マイケル・G・ウィルソン、アルバート・R・ブロッコリ
脚本/リチャード・メイボーム、マイケル・G・ウィルソン
音楽/ジョン・バリー
主題歌/デュラン・デュラン
撮影/アラン・ヒューム
編集/ピーター・デイヴィス
制作デザイナー/ピーター・ラモント
タイトル・デザイン/モーリス・ビンダー
●舞台/シベリア、イギリス(アスコット競馬場)、パリ、サンフランシスコ
●敵/マックス・ゾーリン(クリストファー・ウォーケン)
メイデイ(グレース・ジョーンズ)
●ボンドガール/ステイシー・サットン(タニア・ロバーツ)
 「ゴールドフィンガー」をもう一度”とのブロッコリの掛け声がなんとなく実現した一作。
 敵キャラ、サブ敵キャラのキャラが立ち、終盤のスケールや盛り上がり、演技による(アクションでは無い)ユーモアもそこかしこにあり、良いムードを作っている。

 が、ムーアの持ち味で競馬絡みのシーンは上手くいってるが、アクションとなるとスタントマン丸出し(ムーアはもう動けない)。

 消防車、市役所シーンには必然性が感じられず、プレタイトルのビーチボーイズは誰の発案なのか、全くセンスが無い。
 サブ敵のメイデイ(グレース・ジョーンズ)は、いい味出してる。「ゾーリンをやっつけて!」で爆死、そして飛行船から「ジェームズ!」の声、ここら辺のムードの冴え、演出のリズム感は、グレンの力か?脚本か?編集か?

 良い所は何となく5点満点で3点ぐらいは確実に行っているが、明らかにマイナス4ぐらい悪い所が散見され、それらが全編の中で均等にまぶされているような感じ。全編を通すと弛緩された出来上がりとなっている。M・ビンダーのタイトルはシリーズ最低の出来。
●極私的注目点
・アクションにグレンの冴えが見られない。
・デュラン・デュランの起用。
・ボンドとティベット卿(パトリック・マクニー)の漫才。
・メイデイが味方に付く流れと活躍。
「感動的なメイデイの爆死と飛行船への流れのスムーズさ。
 007/美しき獲物たち
 
 
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