■ピアース・ブロスナン・イオンプロ4作品■
 
■ 第17作 007 ゴールデンアイ 
GoldenEye
1995年 英・米
監督/マーティン・キャンベル
製作総指揮/トム・ペブスナー
製作/マイケル・G・ウィルソン、バーバラ・ブロッコリ
脚本/ジェフリー・ケイン、ブルース・フィアスティン
音楽/エリック・セラ
主題歌/ティナ・ターナー
撮影/フィル・メヒュー
編集/テリー・ローリングス
プロダクション・デザイン/ピーター・ラモント
タイトル・デザイン/ダニエル・クラインマン
●舞台/モナコ、セヴェルナヤ(ロシア)、サンクトペテルブルク、キューバ
●敵/アレック・トレヴェルヤン(ショーン・ビーン)
ゼニア・オナトップ(ファムケ・ヤンセン)
ウルモフ(ゴットフリード・ジョン)
●ボンドガール/ナターリア・シミョノヴァ(イザベラ・スコルプコ)
 この作品が良い、この監督が良いと言う人の気持ちは分かります。キチンとした手堅いアクション映画に仕上がってる。
 しかし、ボンド映画のエッセンスは無くなった。そもそも初っ端のボンド登場シーンはなんでしょう? あからさまなスタントマン。あれが”新しいジェームズ・ボンドだ”なんて誰も思わない。
 そして、ソ連のトイレで逆さでブロスナン登場となる。これが6年の沈黙を破って華々しく登場したボンドなのか?あまりにも「ボンド登場!」のカタルシスを無視している。

 2人エージェントは新鮮で良い。ドラム缶みたいのが飛び出してくるアクションもなかなか良いし、その後のバイクも良いが、飛行機追跡のあからさまな合成ジャンプはいかがなものか。物理法則にも反して思いっきり脱力してしまう。あれで観客がスリリングさを覚えると思うのがどうかしてる。これが新ジェームズ・ボンドの残念なプレシークエンスである。

 T・ターナーのタイトルバックは優秀。主題曲も良い。そこで描かれてる”ソ連崩壊”、絵としては立っている。ただその内容を本編まで引きずるのはどうなのか? プレタイトルで東西冷戦の落とし前を付けたのだから、本編は新機軸で行くべきでしょう。そこら辺の脚本は、実に弱腰です。

 イオンプロは、”先端を行こうとして”、いつも1歩遅れる。基本的に観客は”冷戦をテーマに”007を見ていません。
 だから本編で、”昔の化石”とか、”冷戦は終わった”とか、言い訳じみたこと言っても説得力も求心力もありません。

 エリック・セラの音楽はヘリ脱出音楽以外は向いているとは思えない。タンクチェイスの音楽は他の作曲家に差し替えられている。
●極私的注目点
・M役のジュディ・デンチが登場。
・U2のボノとジ・エッジ作曲の「ゴールデンアイ」
・シリーズで初めてCGを活用したタイトルバック。
・チェイスに戦車を使うという発想。
・ペンシル爆弾の面白さ。
・ラスト、アレックとボンドとの格闘の映画技術的優秀さ(編集など)。
 
■ 第18作 007 トゥモロー・ネバー・ダイ
Tomorrow Never Dies
1997年 英・米
監督/ロジャー・スポティスウッド
製作/マイケル・G・ウィルソン、バーバラ・ブロッコリ
脚本/ブルース・フィアスティン
音楽/デイヴィッド・アーノルド
主題歌/シェリル・クロウ
撮影/ロバート・エルスウィット
編集/マイケル・アルカン、ドミニク・フォーティン
プロダクション・デザイン/アラン・キャメロン
タイトル・デザイン/ダニエル・クラインマン
●舞台/ハンブルク、南シナ海、サイゴン(ベトナム)、ハーロン湾
●敵/エリオット・カーヴァー(ジョナサン・プライス)
●ボンドガール/ウェイ・リン(ミシェール・ヨー)
 B級+アルファ+ボンド映画で非常に安定している作品。ブロスナンも若干太って貫録も出、ボンドが板についた。メディア王という敵もハッキリしており、中英戦争前夜という筋にも骨が通っている。脚本はダルトン時代も含め、この当時で一番出来が良い。

 ただ、アクションにしろ、話にしろ、全体的に踏み込みが足りないところがあり、 例えば最大の見せ場とされる2人乗りバイク逃亡もスリルというよりもショーという感じだ。

 ヨー「ここまでね・・」ボンド「いやまだだ!」と洗濯物を見るショットはなかなかグッとくるが、このショットを2回繰り返すところがB級っぽくなってしまう。
 そもそもヘリが建物を壊しながら、ボンドらに接近するシチュエーション自体がB級。ヘリの搭乗員が人形なのも興醒め。
 もうちょっとなんとかならなかったのかと思うが、それで企画がスタートしたのだからしょうがない。TV放送時には、このヘリシーン、まるまるカットされた。

 サブ敵であるスタンパーやDr.カウフマンもいい味出しているのだが、話にあまり絡まない不満がある。
 この作品の最大の功労者は、デイヴィッド・アーノルドだろう。バリーの映画音楽手法を継承し、盛り上げるところをしっかり盛り上げている。

 発表会のボンドの活躍、新聞社でののヨーの活躍、ホテルから駐車場へ行くボンドなどワクワクする見せ場も多く、その中でも米軍機からベトナム海域へダイビングする単純なシーンが一番スリリングと言う皮肉。
●極私的注目点
・戦闘機アクションのプレタイトル。
・ボンドカーをめぐるQとボンドのやり取り。アーノルドの音楽。
。カーヴァーのパーティでのボンドの暴れ方。
・Dr.カウフマンと携帯電話。
・カーヴァーのハイテンションさ。
・ミッシェル・ヨーのクンフーアクションをはじめとする活躍。
・垂れ幕をジャンプする2人。
・ヘリに追いつめられるシーンの2人表情。
・敵の居場所を特定し「ハーロン湾よ」とリンが言い、オーバーラップで湾の映像。アーノルドの音楽。
 
■ 第19作 007 ワールド・イズ・ノット・イナフ
The World Is Not Enough
 1999年 英・米
監督/マイケル・アプテッド
製作/マイケル・G・ウィルソン、バーバラ・ブロッコリ
脚本/ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、ブルース・フィアステン
音楽/デイヴィッド・アーノルド
主題歌/ガービッジ
撮影/エイドリアン・ビドル
編集/ジム・クラーク
プロダクション・デザイン/ピーター・ラモント
タイトル・デザイン/ダニエル・クレインマン
●舞台/ビルボア(スペイン)、ロンドン、アゼルバイジャン、バクー、カザフスタン、イスタンブール、カスピ海
●敵/エレクトラ・キング(ソフィー・マルソー)
レナード(ロバート・カーライル)
●ボンドガール/クリスマス・ジョーンズ(デニス・リチャーズ)
 実は「スカイフォール」製作の伏線がこの作品にあると思ってる。
 両作品とも文芸系監督起用。「スカイフォール」は舞台演出で開き直り成功、「ワールド・イズ・ノット・イナフ」は残念ながら失敗。

 いろいろな要素を入れ込んだはいいが、全部筋が通って無い。唯一ソフィー・マルソーの悪役が新鮮だった。アクションは手慣れていないのか、全てにおいて中途半端。当時、カットが明らかに足りないという話も出た。

 プレシークエンスのボートチェイスはそれなりに魅せるが、船上レストランに追突するカットを4回も繰り返すなど編集にも疑問が残る。
 ソフィー・マルソーによる拷問シーンや、Mとのやり取りに原作テイストを感じさせ、それらは結構魅せている。
 他にも雪崩からの脱出や、ボンドがサラッと敵を撃ってなりすますなど、見どころのあるシーンはあるが終始、演出にふらつきを感じさせ、作り手は007の殻を突き破れなかった。これは後の宿題となる。
●極私的注目点
・ボートチェイスで駐車禁止作業中の係員らに川の水がバッサリとかかるシーン。
・タイトルバックでボンドが肩を痛めるカットを挿入していること。
・Qのセリフ「弱みを見せないこと。逃げ場を確保しておくこと」。
・Qの引退。土台が下がりQの姿が徐々に消えていく・・。
・雪上のアクションで、ボンドが「ロッジで会おう」と決め台詞を言うが、敵のパラシュートが開き決め台詞が外れる(そういう脚本・演出)。
・雪上のアクションで雪崩、ボンドのスキースーツが球状に膨らみ難を逃れる。エレクトラのパニック。
・ボンドのレントゲンサングラス。
・「例のモノは?」と問われて、ボンドが分からず差し出したバックの中身は、人気のスニーカーというギャグ。
・ボンドらがパイプラインで爆発後、エレクトラがMに「贈り物があります」、M「こんな時に・・」のシーン。
・Mの電池作業。
・エレクトラのボンド拷問シーン、その後のボンド、エレクトラ射殺シーン。
・日本版ラストクレジットの音楽に「ルナシー」の起用。全然合ってないが、配給の気骨は買う。
 
■ 第20作 007 ダイ・アナザー・デイ 
Die Another Day
2002年 英・米 
監督/リー・タマホリ
製作総指揮/アンソニー・ウェイ
製作/マイケル・G・ウィルソン、バーバラ・ブロッコリ
脚本/ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド
音楽/デヴィッド・アーノルド
主題歌/マドンナ
撮影/デヴィッド・タッターサル
編集/クリスチャン・ワグナー、アンドリュー・マクリッチー
プロダクション・デザイン/ピーター・ラモント
タイトル・デザイン/ダニエル・クラインマン
●舞台/北朝鮮、ホンコン、キューバ、イギリス、アイスランド、朝鮮半島38度線上空
●敵/グスタフ・グレーブス(トビー・スティーブンス)
タン・サン・ムーン大佐(ウィル・ユン・リー)
●ボンドガール/ジンクス(ハル・ベリー)
ミランダ・フロスト(ロザムンド・パイク)
 この作品は一番批評が難しい。良い所は特出して良く。悪い所はとことん悪い。
 批評の仕方で、良くも悪くも簡単に転ぶから、まずは、特出して良いところをひとつ挙げておく。

 「ダイ・アナザー・デイ」の一番の見どころシーン、それは、007史上はもちろん、映画史に残る名シーンと言っても構わないんじゃないかと筆者(youon)的には思ってる。

 ”鳥類学者のナンパシーン”ですよ。

 『こういうセックスをしませんか?』という会話を、鳥類学者になぞられた男が、その場で出くわした女と交す。そのいやらしさたるや、女は軽く濡れ、男は半勃起する。
 そのスムーズで品があるが、意味深な会話のやり取りは見る者を魅了させる。
 筆者(youon)は、このシーン、原語で分析しましたよ。ハル・ベリーとブロスナンの演技力に負うところが大きい。ブロスナンはこういう捻(ひね)った役柄が合ってます(ボンド役という意味ではなく)。
 アメリカ上映では、その後の行為シーンはカットされたらしい。

 「ボンド映画」は、時代の先端を取り組むことだと作り手は思ってる(思い込んでる?)。
 確かに各作品、それなりの時代背景を取り入れているが、今作品の”北朝鮮”はいかがなものかと思う。そんなような現在進行形の時事は、作家トム・クランシー(今そこにある危機)じゃないのだから、安易に北朝鮮とか持ってくるべきではない。この北朝鮮登場で、シリーズ上、初めて実在の国家が敵に設定された。

 「ダイ・アナザー・デイ」は、近未来SFのような作風で、透明になるボンドカーや、「ダイヤ」をキチンとやったような人工衛星からの熱戦照射、「ゴールドフィンガー」を彷彿させるようなレーザー機材での格闘、ボンドカーに対抗するような敵ザオの秘密兵器搭載の車、東洋人から西洋人への遺伝子整形、仮想現実眼鏡など、近未来SF的なアイディアは満載で、それぞれそれなりに魅せるが、いささか軽々しい。

 例えば、ボンドカーVSザオカーのシーンにしても、互いにドンパチやってはいるが、細かく編集して繋いでいるだけで迫力はいまいち。演出(編集)に、”溜め”が無い。逆さになったボンドカーを助手席飛び出しで立て直すシーンも、編集カットでそれなりに見せているだけで、実際にはそのスタントは無い。グレン時代までなら実際にやっていただろうと思う。

 サブボンドガールのミランダ(ロザムンド・パイク)の裏切りはいい味を出した。その後、他映画作品でロザムンド・パイクの主演、準主演作品が多く出たのも頷ける。

 40周年作品ということで、各所に過去作のオマージュを散りばめているが、それらのシーン、カットは、時間が経ってしまうと、「ダイ・アナザー・デイ」という作品に取り込められてしまい、今や特にオマージュとは感じられない。”ぶどうを摘み食いする”シーンは、「サンダーボール」のオマージュだが、今や「ダイ・アナザー・デイ」のシーンである。「黄金銃」のオマージュとされる医療室の廊下のオブジェも同様です。
●極私的注目点
・プレタイトルのホーバークラフトアクションで、ボンドが鐘を突くところ。
・実写でストーリー性を持たせたタイトルバックはシリーズ下位の出来。
・ダイヤモンドを付けたままのザオ。
・医療室から脱出したボンド、そこはホンコンだった描写。
・ボロボロでホンコンのホテルにチェックイン。
・Mとミランダの会話シーン。
・ジンクスが医師を軽々と射殺するシーン。
・ザオを追う銃を構えたジンクスの魅力
・グスタフ登場シーンに挿入歌 『ロンドン・コーリング』がかかる。シリーズ中では画期的な演出。。
・ボンドとグスタフのフェンシング決闘を止めるミランダ。
・旧地下鉄構内のQ工房。
・ミランダの「シャルウイ?」にボンドがジンクスに皮肉って「シャルウイ?」
・ミランダがボンドに銃を向けるシーン。
・ガラスを砕くボンドの指輪。
・ジンクスを氷の部屋に閉じ込め、ジンクスに蹴りを入れられたミランダのセリフ「お~!怖!」(日本語吹き替え版より)
・ザオの車がボンドカーに突進するとき、消えるボンドカー。
・グスタフのパラシュートがボンドによって開かれ、輸送機のエンジンに巻き込まれるシーン。
・大型空輸期からヘリで脱出するボンドとジンクス。
・マネーペニーの擬似空間オナニー。

  
  
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